【フィールドワーク通信】53. 網小屋でのひととき
【フィールドワーク通信】では、調査などで見かけた漁村などの一場面を書き残しています。砕けた内容が多いですが、漁村の暮らしが伝わればうれしいです。
フィールドワークは新型コロナウイルスの感染予防対策のもと、相手の許可をとって実施しています。
7月8日(金)、鳥羽の海女さんのところへちょこっと立ち寄ったので、そのときのお話を書きます。
昼過ぎに電話をすると「ハマにおるで」とのこと。
海岸沿いに立てられた網小屋(漁師さんや海女さんが休憩や食事、漁のための作業をする小屋)にいるよという意味なので、早速出かけました。
この地域では漁港の海岸沿いにずらっと網小屋が並んでいて、足を踏み入れると、共同空間と私有空間が溶け合ったような不思議な感覚をおぼえます。
写真の左側に並ぶのが網小屋です。
目的の網小屋にたどりつくと、漁師さんと海女さんが小屋の前に座って作業をしていました。
手に持っているのは、冬のイセエビ漁で使う赤いナイロン製の網。
漁が始まる前に、昨シーズンに破れたところを繕っておくのだそうです。上の写真の中央にある赤いものがエビ網です。
海女さんたちは今日も海女漁に出ていました。
ここ数日は大波が続いているものの、なんとか海のうねりに立ち向かいながら漁をしてきたとのこと。
若手海女さんも来て雑談をしていると、自然と話はアワビ漁のことになります。
あまりの暑さに若手海女さんが海で熱中症を起こしてしまったという話には、ベテラン海女さんがどう暑さをやりくりしているのか経験談をシェア。
誰がどこでアワビをたくさん採ったか、自分の身体をどう上手に使うか、話題は尽きません。
身体の使い方の話では、ベテラン海女さんが若手海女さんに、息継ぎの時間を十分とっていないように見えるからしっかり息を整えて潜るようにしたらよいのでは、とアドバイスする場面も。
海女漁は個人プレーですが、お互いのことをしっかり見守っているんだなと実感しました。
その後話題は、シーズンまっさかりのタコ漁のことに。
1枚目の写真や、この写真に映る黒色のカゴがタコカゴです。
鳥羽志摩地域では素焼きのタコツボを海に沈めてタコを獲ることが多かったのですが、現在はこのナイロン製のタコカゴが主流です。
ただ、ここ最近はカゴにあまりタコが入っていないそうです。
「メスのタコが入ると、オスも何匹も入ってくるんやけどな」と漁師さんが笑っていました。
海女さんたちはアワビ漁の最中に、カギノミという先端が鉤状になった鉄の道具でタコを捕まえることもあります。
この場合タコは出荷せず、晩のおかずになります。
「獲ろうとするとタコがぎろっと睨んでくる」「急所に一発当てるんや」など、海中でのタコと海女さんのスリリングな戦いのお話は聞いていて飽きません。
網の修理でお忙しいところ手を止めさせてしまいましたが、ご厚意のおかげで、そんな網小屋でのひとときを過ごすことができました。
(吉村真衣)