【フィールドワーク通信】13. 石鏡のかづきおり

【フィールドワーク通信】では、調査などで見かけた漁村の一場面を書き残しています。砕けた内容が多いですが、漁村の暮らしが伝わればうれしいです。
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2021/2/16(火)

写真展の余韻も冷めやらぬうちに、再び石鏡に出かけました。
今日は海女さんの年中行事「潜き下り(かづきおり)」の日です。
※鳥羽志摩では、潜ることを「潜く(かづく)」ともいいます。

海女漁のシーズンが始まる前、町じゅうの海女さんが集まり海の神様に大漁や安全を祈ります。
海女さんたちからは「豆息災を祈るんや」と教えていただきました。
石鏡では節分に関係なく、日々の無病息災のことを「豆息災」と呼ぶようです。

漁業協同組合の施設内にかけられた「八大龍神」の掛け軸。
今日も「石鏡時間」(参考:石鏡写真展)が発動し、みなさん30分以上前行動をしていらっしゃいました。

お供えが増えるとこんな感じになってきます。

中央に生きた雌雄のアワビが1対用意され、周囲に餅、ナマス、小豆ご飯、生米と小豆、酒、浜から拾った小石、家によってはタツクリや干し柿も供えられます。

アワビの隣に、アワビの形をした餅があるのにお気づきでしょうか?
家に祀られている恵比寿さんに供えてあるアワビの殻を使って成形するそうです。
丸形の餅を供える人が多いですが、こんなこだわりをもつ方もいらっしゃいます。

お供えをした後、アワビを磯ノミでおこしたり、アワビと自分の額を交互に触ったりという所作もありました。
今年も安全に大漁(だいりょう)したい、という思いが伝わります。

全体の流れとしては、旧海岸線沿いの堤防→漁協の八大龍神→町内の石碑→墓場の下の六地蔵→船をもっている人は船に、という順に回ります。

お供えセット。

堤防での様子。手を合わせる前に、磯ノミで「カミノゼン」と呼ばれるお供え物の入った木箱をカンカンと叩きます。

以前は屋外にかけられていた八大龍神が施設内に移動したり、
石碑に直接かけられていたナマスやご飯が、石碑の前に設置された段ボールに収められるようになったりと、かづきおりは少しずつ形を変えています。

実際来てみて空気に触れると、単なる「簡略化された」「昔はもっとしっかりしていた」という言葉では切り捨てられないなと感じます。

高齢化、人口減少のなか、できる範囲でなんとか海への祈りをつなぎたいという思いが身にしみて伝わります。

みなさんもぜひ、鳥羽志摩の年中行事やみなさんの身近な年中行事に触れ、その変化の背景に思いを巡らせてみてください。

(吉村真衣)

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