【フィールドワーク通信】37. 安乗の三棚神事

【フィールドワーク通信】では、調査などで見かけた漁村の一場面を書き残しています。砕けた内容が多いですが、漁村の暮らしが伝わればうれしいです。
フィールドワークは新型コロナウイルスの感染予防対策のもと、相手の許可をとって実施しています。

2022年1月1日、志摩市阿児町安乗の「イヤモトの浜」で三棚神事(みたなしんじ)が行われました。

三棚神事は「御棚」とも表記され、元旦の午後2時、潮が八合ほど満ちる頃に合わせて、海の神(龍神)に1年間の豊漁と安全を祈ります。

道を浄める「潮振り」役の神社総代を先頭に安乗神社を出発。


   
イヤモトの浜に到着し、神事の準備をする神官。
この日は手で押さえていないと烏帽子も飛ばされそうな大風でした。

イヤモトの浜に立てたモチの木に、黄金がなるように十数個のみかんを挿します。
これを「みかんならし」または「橘をはやす」とも言います。

丸盆に並べられた五穀を盛りつけた小皿。

1膳に9枚並べたものを9膳用意します。
モチの木の細い枝を箸に見立て、それぞれの小皿の上に置きます 。

「三重県の海村の正月行事と祭/野村史隆・文(『海と人間Vol.17』)」には、「カワラケ(筆者注:現在は白い小皿を使用)が9枚、9膳で81枚であることから中世からの陰陽師からくるまじないの要素が強く、その古さがわかる」と記されています。

祝詞奏上。神官の敷物も風で飛ばされないように海岸の石で押さえました。

 

みかん十数個を挿したモチの木を倒した後、81枚の小皿に盛った五穀を順に海に投じます。

以前はモチの木を倒して吉凶を占いました。
海側に倒れれば大漁、陸側に倒れれば農作物が豊作といわれ、人びとは倒れた木からみかんを奪いあい、神棚にまつりました。

近年は、区長が「五穀豊穣、大漁満足を願って」海側に倒します。
今年はみかんは奪い合われることなく、神事を見守っていた二人の海女さんが海から引き上げ、 「ご利益があるから」と分けてくださいました。


 
海女さんに昨年の海の状態を尋ねると、「安乗はまだ、はえもん(海草)もあって、アワビもサザエも獲れたけど、海のことはわからんでな」とのお返事。

新年にあたり、海女さんといっしょに竜神様に「大漁満足と海上安全」を祈りました。

(﨑川由美子)

人物の写真はすべて地元の方から掲載許可をいただいています。

コメントを残す