【フィールドワーク通信】38. 安乗の三番叟

【フィールドワーク通信】では、調査などで見かけた漁村の一場面を書き残しています。砕けた内容が多いですが、漁村の暮らしが伝わればうれしいです。
フィールドワークは新型コロナウイルスの感染予防対策のもと、相手の許可をとって実施しています。

2022年1月2日、志摩市阿児町安乗の「イヤモトの浜」で、前日の三棚神事にひきつづき三番叟(さんばそう)が行われました。

三番叟は「翁祭」「翁三番叟」ともいわれ、1月2日午後2時頃の潮が八合ほど満ちる頃、「イヤモトの浜」「秋葉さん」「安乗神社拝殿」の順に三番叟を舞わして村の繁盛と息災を祈ります。

まず大晦日に、翁人形3体を安乗神社本殿脇の奉安庫から出し、社務所の床の間に安置します。

1月2日、翁人形を再び木箱におさめて担ぎ、道を浄める「潮振り」を先頭にイヤモトの浜へ向かいます。
三番叟を舞うのは、安乗文楽保存会の人たちです。

龍神様に御神酒と洗米を供え、神官の祝詞奏上の後、3体の翁人形を順番に舞わします。

イヤモトの浜での舞いを終え、潮振りを先頭に秋葉さんへ向かいます。秋葉さんは、火よけの神として全国で広く信仰されています。
安乗では、的矢湾を見下ろす八幡山の一角に秋葉さんがあります。安乗神社も八幡山にあり、安乗の人々にとって大切な場所です。

八幡山の「神森(かみもり)」に巻いた注連縄(写真右)は、11月1日、不浄物の出入りを禁ずるために巻いたものです。

裏海に面した高台にある秋葉さんの社前で、的矢湾を見下ろしながら舞いを奉納します。

最後に安乗神社拝殿で舞い、無事に三番叟が終わりました。

最後に、年中行事の見学や撮影をされる皆さまにお願いです。

今回の三番叟では、神官が祝詞を奏上している時にカメラマンの私語が目立ちました。

神事終了後、「大年寄」という役職の方から「私たちは真剣に祈りをささげています。神事の間、私語は慎んでほしい」と苦言が呈されました。

また、撮影を優先し神事を妨げるような振る舞いも見られました。

コロナ禍において、多くの神事が縮小や中止に追い込まれている中、安乗の方々も感染対策に気を遣いながら、「若い人たちのためにも、自分たちの代で絶やすわけにはいかない」との強い思いから神事を斎行されています。

カメラマンの方々には、「撮影させていただいている」という謙虚な心を忘れないでほしいと、自戒も込めてお願い致します。

参考:安乗神社宮司への聞き取り/『海と人間』海の博物館年報(平成2年3月発行)/『阿児町史』昭和52年発行/『安乗の人形芝居』阿児町教育委員会(昭和59年2月発行)

(﨑川由美子)

人物の写真はすべて地元の方から掲載許可をいただいています。

 

コメントを残す