【フィールドワーク通信】41. 波切の写真展

【フィールドワーク通信】では、調査などで見かけた漁村の一場面を書き残しています。砕けた内容が多いですが、漁村の暮らしが伝わればうれしいです。
フィールドワークは新型コロナウイルスの感染予防対策のもと、相手の許可をとって実施しています。

2022/2/11〜17

志摩市大王町波切にて三重大学伊勢志摩サテライト海女研究センター・鳥羽市立海の博物館共催「丘端(おかばな)の記憶 波切の暮らし写真展」を開催しました。

新型コロナウイルス感染予防対策のため大々的な告知はできませんでしたが、連日住民のみなさんで賑わう写真展となりました。

丘端(おかばな)とは志摩地方でも波切にだけ伝わる言葉で、丘の端にある見晴らしのよい高台を指します。
夏は風が涼しく冬は日が暖かい場所で、住民が集まり談笑する共同空間でした。

そんな丘端には、住民のみなさんが街や海を見ながら重ねてきた、日々のコミュニケーションの記憶が詰まっていると思います。

それと同じように、何気ない日々の記憶が蘇りつながる場として写真展をつくりたいという気持ちを込めてタイトルをつけました。

初日から多くの来場があり、それぞれの写真にまつわる思い出をたくさん聞くことができました。

実感したのは、波切の長い歴史のなかで、一つの空間に多様な生活世界が折り重なってきたのだということです。

豊かな海に面した波切では古くから漁業がさかんでした。海女漁やカツオ漁など、性別にかかわらず皆が海を生業の場としてきました。

陸には海産物の加工業だけでなく、石工をはじめとする職人も多くいました。
時代とともに産業や生活様式が多様に展開され、同時代でも生業や世代によって異なる生活世界が存在していました。

それは波切が、古くから海・陸の両方を通して外部と多様につながってきたからだと考えます。

大正7年から昭和3年にかけて修築された波切漁港には見事な石積みがあり、波切の石工の技術力が伺えます。
こちらの写真は、地元の方が「紙1枚入る隙間もない」と誇る石積みです。

もともと波切には高い水準の技術をもつ石工がいましたが、この漁港修築を通して職人数が劇的に増加したそうです。

海と陸の一見異なる領域の生業が歴史のなかで交差してきたこと、それが今に残る景観に反映されていることにも波切の魅力を感じます。

写真展では貴重な語りを多く収集できたほか、地元の方が保存する古写真をデータ化することもできました。
今後地元や海の博物館と連携しながら保存活用を進めたいです。
このフィールドワーク通信でも順次紹介します。

写真展に協力してくださった波切の皆さま、改めてありがとうございました。

(吉村真衣)

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