【活動報告】「現役志摩の海女さんと語る!海女の魅力 in海博」第6回を開催しました

鳥羽市立海の博物館と三重大学海女研究センターが主催するイベント「現役志摩の海女さんと語る!海女の魅力 in海博」の第6回を2022年11月19日に開催しました。
※レポートの掲載が大幅に遅れたことをお詫び申し上げます。

イベントの概要はこちらから。

今回は志摩市志摩町片田の70代海女さん2名にお越しいただきました。

先輩海女さんは15歳から潜って海女歴58年、後輩海女さんは20歳から潜って海女歴56年。おふたりとも大ベテランです。

中学校を卒業してすぐに海女を始めた。中学校を卒業したら、進学しない人には真珠養殖や海女しか選択肢がなかった。兄弟も真珠の養殖をしていた。磯があがると真珠のかき入れ作業の手伝いに行った(先輩海女さん)

子供がいてどこにも働きに行けなかった。けど海女さんなら、近所のおばさんたちに2〜3時間子供の面倒を見てもらっている間、お金を稼ぐことができた(後輩海女さん)

ウエットスーツが導入される以前に着ていた白い木綿の磯着をその場で着用してくださいました。

50年ほど前は80〜100日くらい海女漁に出ていた一方、出漁日数が徐々に減り、この夏のアワビ漁は15日間だけだったそうです。
海の環境変化による獲物の減少だけでなく、出漁が天気に左右されるうえ、漁協が休みの日は休漁になるなど、複合的な要因からこのような日数になったとのこと。

アワビやナマコが減り、ここ2〜3年はサザエが主な獲物です。
片田ではワカメ、ヒジキ、アラメが生えておらず、フノリなど岩につく短めの海藻は見かけたそうです。
前回の越賀の海女さんが商品化している「イロロ(片田ではアバタと呼ぶ)」なども生えているものの、食べる習慣がないので採らないと話していました。

おふたりとも、夫婦または親子で出漁する「フナド」です。
海女さんは重りをつかんで船から海底へ勢いよく潜水し、戻るときには腰の命綱を引いて船上の夫や父親に合図をします。
すると、彼らが滑車を使って命綱を巻き上げ、海女さんを海上まで引き上げます。

近年は個人で浜から泳いでいく「カチド」や、船に複数の海女が乗り合わせて移動する「ノリアイ」の割合が多く、フナドは希少な存在になっています。

中学卒業してすぐ後に、よその船に1回だけ乗せてもらったけど、次の日からは父親と2人で漁に出た。父親のあとにも、トマエ(船頭)さんが変わることがあった。今は夫と出ている(先輩海女さん)

先輩海女さんは、この「フナド」方式で10〜20mほど潜ったそうです。

重りは家によって違うけど、私の家は17kgで重め。長く海底にいすぎると、息継ぎの時間も多く必要になるから、私は長くても40秒くらいで上がってくる(先輩海女さん)

昔はアワビが多かったから、一息(1回の潜水)で7〜9個獲れた。海底に着くまでに、アワビが並んでいるのが目で見えた。そんなときは、1つずつ相手をすると時間がもったいないから、まずは全部ノミで剥がして、裏返してから一気に拾っていた(後輩海女さん)

一方で現在は、磯焼けの影響などからアワビが極端に減少しています。
片田では去年と今年はまったく獲物がいなかったそうです。

去年からは(資源保護のため)ノミも持ったらダメになった。アワビがいても、身が悪くて食べられないものばかりだし、獲らない(後輩海女さん)

今の海の状態だと、海女のなり手もいない(先輩海女さん)

道具も見せていただきました。
後輩海女さんは、スカリ(獲物を入れる網)や耳栓入れなどの道具を、トマエ(船頭)である夫が、使いやすさ重視で手作りしてくれるのだそうです。

また、漁期のあいだに体重が落ちるため、1.5〜3kgまでの3種類の重りを使い分けていると話していました。

鳥羽志摩の各地では魔除けの「ドーマン」「セーマン」の印がよく使われますが、片田では「同じ場所に戻ってこられるように」という意味あいの「セーマン」のみ身につけるそうです。
また、近年では魔除けの印を身につけない人も増えてきたとのこと。

さらに先輩海女さんは、出漁するたびに、船の神様である「船霊(フナダマ)さん」と海の神様である「龍宮さん」にむけて、こんなまじないをするそうです。

洗米と御神酒は必ずお供えする。洗米は家から持ってきて、御神酒は船の船霊(フナダマ)さんに積んである。この2つは龍宮さんにも供える
それから、船の縁に魔物がいたらいけないから、ノミでトントン叩いて「ツヨツヨ」と言う

このようなまじないをするかどうかは、片田の中でも地域や出漁グループによって異なるそうです。

旧暦6月13日に行われる「浜清め」という年中行事は、浜に海女や海士、トマエが多く集まり大漁や安全を祈ります。

このトークイベントでは「海女が好き」「海が好き」という海女さんたちの言葉で締められることが多いのですが、今回は後輩海女さんからこんな言葉がありました。

私は海が嫌い。でもここは、海女と真珠養殖以外に何も仕事がないから。海に行くのは楽しくない。
だから漁ではそんなに欲がない、「こんだけ獲ったらまあええか」と思う。終了時間になると「ほんならまあ(船に)乗ろか」って言う。諦めも早い

なぜ海女になったのか、海女漁とどう向き合っているのか、ひとくちに「海女さん」と言っても本当に多様であることを感じる、率直なコメントでした。

2022年度の「現役志摩の海女さんと語る!海女の魅力 in海博」は今回が最終回でした。
貴重な時間を割いてお話をしてくださった海女さんたちに、改めて心からお礼申し上げます。

(吉村真衣)

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第1回 2022年10月15日 志摩志島の海女さん
第2回 2022年10月22日 志摩安乗の海女さん
第3回 2022年10月29日 志摩波切の海女さん
第4回 2022年11月5日   志摩船越の海女さん
第5回 2022年11月12日 志摩越賀の海女さん
第6回 2022年11月19日 志摩片田の海女さん