【フィールドワーク通信】81. 相差天王くじら祭り

【フィールドワーク通信】では、調査などで見かけた漁村の一場面を書き残しています。砕けた内容が多いですが、漁村の暮らしが伝わればうれしいです。
フィールドワークは感染症予防対策のもと、相手の許可をとって実施しています。

7月14日(日)、鳥羽市相差町で天王くじら祭りが開催されました。

鯨崎の白浜側の海岸にある、干潮の時にわずかに姿を現す「鯨石」と呼ばれる岩があります。
奈良時代の天平勝宝の頃(749~57)浜の平という者が浜辺を歩いていると、1寸8分の黄金の観音像が鯨の背に乗って現れ、まばゆい光を放っており、男が観音像拾い上げると鯨はたちまち石になってしまいました。 像を持ち帰り祀っていたところ、夢に観世音が現れて「青山へ行きたい」と告げるので青峰山正福寺(松尾)に納め、寺の本尊としました。
男はその後青山の姓を名のって相差に住みました。 現在でも相差にある青山家は、青峰寺とは特別な関係にあります。 寺の本尊の青山観音は胎籠りとなっており、ご開帳は50年に一度となっています。

(出典:相差町内会HP https://www.toba-osatsu.com/town-introduction)

くじら祭りはこの伝説と、相差漁港に迷い込んだクジラの供養、さらには志摩半島で古くから行われてきた天王祭を組み合わせるかたちで1989年から始まりました。

当日は漁港付近の埋立地で、町ぐるみの出し物や神事が繰り広げられました。

町には幟が連なり、お祭り気分が高まります。

午前10時にスタートし、弘道小学校の生徒によるマーチングバンド、相差保育所の園児による太鼓、女性たちによる相差音頭や鳥羽物語の演舞が続きます。

相差音頭を踊る女性たち。どの出し物でも、町内外の人々が周囲を取り囲み熱心に応援します。

続いて大鯨、小鯨、孫鯨みこしと宝船みこしによる大鯨練りが始まりました。

待機中のみこしたち。大鯨には青峰山正福寺の旗、小鯨には青峰山正福寺の旗と観音像が載せられています。

みこしは順に入場したあと、掛け声とともに場内をぐるぐる練り歩きます。

大鯨は男性、小鯨は中学生、孫鯨は小学3〜6年生、宝船みこしは小学1〜2年生がかつぎます。

中盤からはみこしに1人ずつまたがり、掛け声も熱気もいっそう増していきました。

大鯨練りのあとは鯨供養です。相差神明神社の宮司による祈祷のあと、海女さん2人が紙吹雪のような色紙と、洗米をそれぞれくじらみこしに撒きます。

その後は町内の小学生扮するミニ海女さん、ミニ漁師さんによって魚介類が放流されました。

出し物はまだまだ続き、志摩市磯部町から招待した恵利原早餅搗保存会による餅つき披露や、景品つきの餅まきなど、盛りだくさんの午前中でした。

午後は市場の横に会場が移され、カラオケやダンス、歌謡ショー、花火などが楽しまれました。

恵利原早餅搗の披露は今年度から始まったそうです。また、くじら祭りでは「海と山の交流」として松本市四賀地区の人々を招待しています。平成初期から、互いの地域の祭りに招待しあうなど交流を重ねてきました。

地域に根づく伝説と、迷い込んだクジラへの供養の思い、安全や豊漁への思い。
また、地域の皆さんを中心とした町内外のつながりや、志摩市磯部町や松本市四賀地区などより広い地域間のつながり。

多様な要素が結びついて受け継がれるくじら祭りは、相差という町の歴史や活気を反映したお祭りなのだと感じました。

(吉村真衣)