【フィールドワーク通信】85. 海女さんのイセエビ漁
【フィールドワーク通信】では、調査などで見かけた漁村の一場面を書き残しています。砕けた内容が多いですが、漁村の暮らしが伝わればうれしいです。
フィールドワークは感染症予防対策のもと、相手の許可をとって実施しています。
鳥羽志摩では2024年もイセエビ漁がはじまりました。
志摩市志摩町御座のベテラン海女さんからお聞きした、イセエビ漁のときのエビとの駆け引きのエピソードをご紹介します。
御座では海女さんや海士さんがエビバサミを使ってイセエビを捕ります。
その海女さんは、穴に引っ込んでいるイセエビを掴み出すタイミングについてこう教えてくれました。
真っ黒なウエットスーツ着て、こいなメガネ(磯メガネ)がキラキラしたんがさ、自分(イセエビ)のはたへ近づいてくるんやでさ。イセエビみんな、なんやなんやって思うやろ。そしたらイセエビのツノがピュッと止まるんやんか。
臨場感のある語りです。
それで(イセエビの)足がな、「何かな、見たろ」と思って、1歩2歩前へ出るん。それで、その後奥へ逃げるんやんか。そやで(自分は)じっとして、出てこい出てこいと思って、じーっと待っとるわけやんか。
すると(イセエビの)足が1歩前へ出た、2歩目の間にキュッと(エビバサミで)挟むと、イセエビは前へ出ようとしてもよう逃げん。そやけどその2歩目をやったら、もう後ろに逃げる体勢に入るわけ。だからじーっとにらめっこしてな、イセエビと。それで前へ進めーって、はよう出てきたれって、苦しいやんかって(笑)
イセエビの生態をよく観察し、予測して瞬時に判断をしていることが伝わります。
また、海女さんが先にイセエビを見つけるか、イセエビが先に海女さんを見つけるかでも戦略が変わるそうです。
私が先に遠くから、あ、イセエビがおるって見たときには、一旦離れたところからスーッと(海面へ)上がってきて、上で呼吸を整えて、それでスーッと潜っていて、そのイセエビの近くへ寄る。
でも(自分が)イセエビがそこにおるのに気づかんと、スーッとイセエビの近く通ったときにパッとツノを見つけたときには、(海面に上がらずに)その息で捕って来んともう次のときには(イセエビが)逃げて構える。先にエビが私見とるんやで、妙なもんが来た、今度来たら逃げたれと思っとるときに私がいったらゴソゴソ逃げる。
海の中で何を捕るかによって、海女さんの知恵や技術が実に多様なのがわかります。
イセエビに関する海女さんの興味深いエピソードでした。
(吉村真衣)