【フィールドワーク通信】61. 波切のわらじ曳き神事
【フィールドワーク通信】では、調査などで見かけた漁村の一場面を書き残しています。砕けた内容が多いですが、漁村の暮らしが伝わればうれしいです。
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9月16日、志摩市大王町波切神社で「わらじ曳き神事」が行われました。
神事は約300年前から伝えられたとされます。
昔八大龍王に追われて波切にやってきた一つ目の鬼神(ダンダラボッチ)が大奥島(大王島)に住んでおり、村にやってきては悪さを繰り返したので、村びとが相談して一丈(約3メートル)の わらじ片足と赤飯を流したところ、鬼神が恐れて逃げたという説話に基づくと伝えられています。
当日の早朝、頭家(とうや)1人が拝殿で神様と食事を摂り、その後崎山公園から大王島に向かって拝礼します。
献立は、昔から「ムツの干物、小豆飯(赤飯)、かぼちゃの具入りの味噌汁」と決まっているそうです。
波切神社拝殿で神事の始まりを待つわらじ。
神事の3日前に漁師や関係者が集まり、長さ約2.3 m、幅約1.5 mのわらじを作りました。
祝詞(のりと)奏上の後、宮司がわらじを浄めます。
神社拝殿の幕の脇で「シオフリ」の男性が待機し、幕引きと同時に場を浄めるための海水を撒きます。
拝殿でのわらじ曳き。
本来は、5人の稚児がわらじの鼻緒に結んだ木綿の綱を持ち「祭文」に合わせて、山の方(西側)から海の方(東側)に向かってわらじを曳きます。
今年は太鼓に合わせて、4人の若者がわらじを曳きました。
一連の神事を終え、七人の女性が祝い唄「エレワカ」を唄います。
本来は須場の浜で行いますが、今回は神殿で行われました。
上の写真は、エレワカの前にお神酒でわらじを浄める頭家の姿です。
その後わらじは、4人の若者に担がれて神社下の須場の浜まで運ばれます。
頭家が手にしているのは、わらじの上に置かれていたイナダの掛けの魚です。
今年は台風14号接近による高波のため、わらじを海水につけて戻し、後日流しました。
(﨑川由美子)
人物の写真は地元の方から掲載許可をいただいています。